電気通信大学60年史
前編6章 戦時中の無線電信講習所
第4節:無線同窓会、社団法人となる
社団法人無線同窓会は1942年(昭和17年)7月18日に発足した。これは、電信協会管理無線電信講習所が同年4月1日より官立無線電信講習所と衣を替えたことに伴ったものと見るべきであろう。時は第二次世界大戦の渦中にあり、同窓会の社団法人化もこれとは無縁ではない。社団法人無線同窓会はおびただしい讃歌の渦から誕生したのである。逓信省電務局無線課長隅野久夫氏は設立の意義について次のように語っている。
社団法人無線同窓会の設立を祝す大東亜戦争勃発以来我が忠勇なる皇軍将士は、世界史上類例を見ない赫々たる戦果を挙げ、大東亜共栄圏建設上絶対不敗の有利な条件を確保しつつあるのであるが、吾々の最も誇りとすることは此の戦果の蔭に我が無線通信が絶大なる貢献を為しつつある事であり、我が親愛なる通信士諸君が将兵と共に敢闘しつつある事である。
現在無線通信の聖業に携り居る通信士は凡そ7千数百名に及んで居るが、此等の殆んど凡ては電信協会管理無線電信講習所の卒業生である。本年4月右講習所が官立に移管せられ益々多数の無線通信士を養成することとなったのであるが、将来の無線通信界を背負って立つのは前述の電信協会管理無線電信講習所卒業生と官立無線電信講習所の卒業生の両者であって、之等の者は一団となって、協力して運用の任に当る事となるのである。無線通信の運用は常に送受側両者の意志を疏通し、提携協力して奉公の念に終始するに非らざれば其実績挙げ得ないのである。即ち通信の業務は相対的業務なる為、一方が幾ら優秀なる技倆者でも、対手方が未熟者であれば、之に支配され十分なる効果を発揮することが出来ない。従って無線通信士は其の技芸の向上には他に比類なき緊密なる協力を要し、常に相提携して普段の精進を要する特異性を有するのである。
無線電信講習所に於ける訓育も之の点強調するを要するのであって卒業後仮令個々に分散して任務に就く場合と雖も、緊密なる連絡を保持する如く精神的教育に努力せねばならぬ次第である。従来卒業生間の連絡を図り、技芸の向上に関する任務を有機的に果して来たのは目黒無線同窓会である。
然るに今回講習所が官に移管せられ無線通信士の育成事業を一層拡充強化することとなったのに伴い、之が背後に於て、否、表裏一体となって協力推進の任務を有する同窓会も亦之に順応して組織を改め、拡充強化せらるべきは当然のことである。依って今回従来の同窓会を発展的に解消して、新に官立無線電信講習所を母体とする之に相応わしい内容の充実せる同窓会を設立し一層其の効果を挙げんとせらるるのは洵に国慶に堪えぬ次第である。
茲に些か同窓会の特異性其の他を記し之が発展を希念し度い。
- 本同窓会の性格と監督官庁に付て
無線同窓会は専ら会員の便益を図り会員相互の進歩向上に資する為の知識の普及を図ると共に一般無線通信の発達に寄与せんとするものにして公益を目的とすること明らかである。而して其の存続と運営に対する会員各自の自覚と協力を強からしめんとする主旨と、且は固定的財産の存するなく其の維持は専ら会員の会費に依存するものなるを以って、社団となしたるは蓋し当然であり、然も其の外的信用保持と存続の安固とを期するため法律上の人格を具有するの必要があるのであって公益社団法人として設立せられたのは最も妥当である。
尚、本会は実際的な事業をも経営することとなって居るが其の企図するところは、全く、会員及無線電信講習所乃至は無線通信界全般の便益のためにのみ活動せんとするものであり之に依り営利を挙げ会員に分配せんとするが如きものではないので民法第34条の公益法人として設立せられたのである。
本会の監督官庁に付ては、本会の構成員は逓信省所管の無線電信講習所卒業生及其の在学生であって逓信省に於て一元的に指導監督の任務を有する無線通信士及通信士たらんとする者のみならず、其の目的とする事業に付ても凡て逓信大臣の主掌する無線通信事業に関するもの又は官立無線電信講習所と密接不離の関係にあるもののみであって、本法上の主務官庁は会員の性格、事業の性質の双方より考え当然逓信大臣である。
- 本同窓会の特性と法人許可条件に付て
本法人の特質の第一は評議員会に対し重要事項の議決権を付与したる点にあるのである。
安ずるに本同窓会の会員は其の殆ど大多数が、海上勤務者なる関係上総会を召集する場合等も充分なる会員の集合は期し難い実情にある。よって評議員なる役員制を設置し、之に代議人的地位と権能を付与し之に対し本会の議決権を付与したるは蓋し妥当なる施策なりと解せらる。
茲を以て右評議員は本法人中重要なる地位を有することとなりたる関係上、一般法令に依り届出の義務ある、理事、監事の外右評議員に付ても其の氏名、住所の届出を要することとせられたのである。
特質の第二は相当の実際的事業を経営する点である。由来同窓会の如きは会員相互の連絡の為機関誌の発行、同窓大会の開催程度の事業を出でないのが常例であるが、本会は其の規則に見る如く多数の事業を行うのみならず、定款、規則に表現せられてない事項でも相当大なる事業が、計画せられて居る。且其の事業運営の可否が直接無線電信講習所の経営と不可分の関係にあるもの多く、就中無線電信講習所の寄宿舎、食堂の経営受託及売店等の経営に至りては普通一般の同窓会の事業としては全く異色たるのみならず、営利的傾向に流るるの虞なしとしない。一面又其の経営が妥当でない場合に於ては無線電信講習所に於ける通信士の養成事業に影響する所大なるものあるを以て充分に其の運営を監視するの要ある次第を考慮し、毎年予算案を逓信省に提出することとせられたのである。
- 本会維持の確実性に付て
無線電信講習所の卒業生は一般学校の卒業生と異なり、卒業後凡て無線通信事業に従事するものなる関係上、会員の集結には特に苦労を要しない点が特徴である。
然して現在迄の卒業生は既に7千数百名に達して居り其の大半は従来の目黒無線同窓会会員たりしものを其のまま継承するものであって社団たるの前提を為す会員数の点に於て既に確実性12分と言わねばならぬ。然も全在学生を準会員とし教職員を特別会員と為し学校と卒業生の緊密なる連係を図ると共に会長には講習所長が当り且役員中にも教職員を選任し之が運営の確実を期して居るの事情等に徴しても本会は極めて強固なる基礎に立ち居るものと言えよう。
本会の収支関係は一般会計と特別会計の二本建となって居るが、特別会計は本会の附帯事業に関するものにして全然別扱のこととし、同窓会本来の収支と混清することを避けたのである。
又一般会計の収支状況は、本年度予算案を見るも明らかなる如く奨学金或は救済資金を容易に捻出し居るの好況にして、財政的見地よりするも、本会は洵に基礎強固なりと言えるであろう。
今や大東亜共栄圏の伸展と共に、我が無線通信の分野は日に月に拡大せられ、通信士の任務は益々重要性を加えつつあるの秋、無線通信士の殆ど全員を網羅したる本同窓会の結成を見たるは、洵に慶賀に堪えぬと共に、其の発展に付ては全会員相協力し役員を鞭鞍援助し、一大強力なる無線通信士団体に育成し、以て無線電信講習所の発展の為、無線通信界全般の向上の為、将又無線同人の福利増進の為、大いなる貢献を致し得る様成長せしめられん事を希求するものである。
尚役員各位に於かれては一般御座成りの会の如く竜頭蛇尾に堕せざる様特に積極的御活動を希望して止まぬ次第である。
この論文は『無線同窓会誌』第10号に掲載されている。第10号には、社団法人となった無線同窓会への讃歌に満ちており、巻頭言は「無線同窓会の発展を祈る」とし、当時の寺島健逓信大臣の文が飾られている。ここで採りあげた隅野氏の論文は比較的冷静なもので、社団法人化の意義、内容について適確に語っているといってよいだろう。
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