電気通信大学60年史
前編5章 拡張期の無線電信講習所
第3節:規則改正と卒業資格の向上
3-1 規則改正と学制の整備
1930年(昭和5年)、本科修業期間1年を2年とした大きな学制改革が行われたが、それから既に7年余を経過し、その間無線科学の進歩、社会情勢の推移、殊に海運界の活況、支那事変の影響を受け、本所卒業生への需要増大は急速に高まってきた。そのため1937年(昭和12年)春、第二級通信士養成のための選科制度が新設されたのであるが、本科生並びに特科生の収容人員も増加し、校舎の増築、実験機器類の充実も軌道に乗り、着実に無線通信士養成校としての機能を備えてきたのに伴い、無線電信講習所規則が1937年(昭和12年)12月3日改正された。その要旨は次のようであった。
- 無線電信講習所規則は、本科のほか選科、特科を併せた総合規定となった。
新設の選科は一応臨時のものであったが、引続き養成の継続が認められたため、従来の特科とともに常設的のものとして、本規則の中に併合されることになった。
- 始業終業時期を4月始業、3月終業に改正
従来は5月始業、4月終業であったが、これでは学生募集上不利であると結論し、一般学校なみに4月始業、3月終業としたものである。
- 入学試験程度と試験科目の改正
本科入学試験は従来中学卒業程度であるが、試験科目は従来の英語、数学、国語以外に、物理を加えた。なお、数学としては算術をけずり三角法を加えた。
選科は昭和12年春臨時に新設されたもので、入学試験はとりあえず本科と同様に中学卒業程度とし、試験科目も本科と同様にしたが、今後常設的に募集されることになったのに伴い、中学4年修了程度に改め、また、試験科目も数学中の三角法を除いたほかは本科と同様になった。
- 休学制度の新設
従来、休学制度は無かったが、実際には兵役その他やむを得ない事故のため長期欠席の場合は、いったん退学のうえ、事故が終わったときは再入学を許可していた。しかし近時兵役等のため、長期にわたり学業を離れなくてはならぬ者が増加してきたので、休学制度を設けることになった。
- 規則中の学生心得の章を除き、別に生徒心得及び生徒係と学級主任制度が設置された。
- 修業証書制度の制定。
この件については、次にあらためて記述することにしよう。
社会の出来事 |
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3-2 修業制度と卒業資格の向上
本科教育は無線電信講習所における本体であって、長年主力がこれに注がれ、最初から第一級無線通信士を目標に養成されていたのである。したがって、卒業生全員が第一級資格を獲得することが念願であった。
1930年(昭和5年)、1年制から2年制に修業年限が倍加されたとき「卒業生は全員一級」の宿望達成の機であったが、諸種の事情により遺憾ながら実現できなかった。銓衡検定試験の規定によれば、1931年(昭和6年)7月1日の改正で「無線電信講習所本科を卒業したる者は、第一級または第二級の資格につき錠衡検定を受くることを得るものと認定する」とあり、第一級を与えるとは規定されていないのである。しかし実際は、いままで例外的に第二級で卒業する者があったくらいで、ほとんどが第一級資格を持って巣立っていったのであるが、それにしても卒業生全部が第一級でないということは、実質上も制度上も不完全と見られるおそれがあり、学校経営上も不利であった。それが今回の規則改正を機とし、逓信省告示によって卒業生全員に第一級資格を付与されることになったのは、大きな発展進歩である。
また、これに伴い修業証書授与制度ができ、卒業できなかった者でも相当成績を得た者には第二級の資格を与え実務界に送り出すことができるが、逓信省告示の中に「修業したる者」に資格を与えることになっているのは、前記修業証書を授与された者を指すのであって、卒業できなかった者全部が修業者という訳ではない。従来は本科卒業で第二級になった者は、いったん卒業した以上最初の目的である第一級を獲得できないから、それを獲得するために引き続き在学を希望しても、制度上これは許されなかった訳であるが、今回の改正では二級資格は卒業ではないから一級資格獲得まで在学することも可能になる等、一級資格を目指すものに有効な制度となった。なお修業制度は選科、特科にも適用された。
逓信省告示第3923号 | ||
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昭和6年9月、逓信省告示第1787号、無線通信士資格検定規則第4条に依り認定したる講習所名および銓衡検定等級中、「社団法人電信協会管理無線電信講習所」の項を左の通り改正す | ||
昭和12年12月7日 逓信大臣 永井柳太郎 | ||
講習所名 | 銓衡検定 | 等級 |
社団法人電信協会管理 無線電信講習所 |
昭和12年12月1日以降本科を卒業したる者 | 第一級 |
同 | 昭和12年12月1日以降本科を卒業したる者 | 第二級 |
同 | 昭和12年12月1日以降本科を修業したる者 | 第二級 |
同 | 昭和12年1月29日以降選科を卒業したる者 | 第三級 |
同 | 昭和12年12月1日以降選科を修業したる者 | 第三級 |
同 | 昭和7年9月1日以降特科を卒業したる者 | 第三級 |
同 | 昭和12年12月1日以降特科を修業したる者 | 電話級 |
社会の出来事 |
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