電気通信大学60年史
前編2章 無線電信講習所の設立
第2節:講習所設立までの動き
2-1 民間養成所の継承決意
電信協会が無線電信通信従事者(以下通信士ともいう)の養成を引き受けることとなったのは、逓信省のすすめと、青山禄郎安中電機製作所社長の「一民間製造業者が、無線通信士養成などの公共的性格の事業を兼営すべきではない」とする判断に基づいて、同社が経営する帝国無線電信講習会を電信協会に譲渡したいとの中し出があったことによるが、海運業者からも逓信省に対して、無線従事者養成機関設置を強く要請した等の緊迫した事情によるものでもあった。早急の間に議を決し、1918年(大正7年)4月5日、安中電機製作所に対し帝国無線電信講習会を本協会が継承経営する旨を確答した。
2-2 経営確定披露
こうして、同年4月13日、若宮会長は、築地同気倶楽部に、中西逓信次官以下同省各局長、東京逓信局長、帝国無線電信講習会賛助員、同講師及び本協会教育委員等を招き、右講習所を経営することになった披露宴を開催した。
講習所経営が確定したので、教育委員として左記の人びとが選任された。
- 教育委員長
- 大井才太郎
- 教育委員
- 田中次郎、玉木弁太郎、犬飼柔吉、青山禄郎、諏訪方季、荒川済
また講師に選ばれたのは
- 講師
- 佐伯美津留、牛沢為五郎、中上豊吉、升本茂一、米村嘉一郎、若松直蔵、近藤太郎等、逓信省在官の権威者
などであった。
2-3 海運会社から予定を超える寄付金
さて、事業資金の捻出については、関係方面との折衝が入念に進められた。こうして事業上、計画案も十分に検討しつくし、予算案も編成され、現実の事業資金を集める段階に進んできたので、若宮会長は7月10日、広く関係有力者を帝国ホテルに招待して、寄付金獲得に努力した。同招待に来会された人物は、来賓としては
となっており電信協会側からは会長以下教育委員、鈴村秀三(定款立案者)が出席した。
逓信省側 若宮貞夫管船局長、中川通信局長、広幡事務官 海運関係 日本郵船、大阪商船、東洋汽船、三井物産、南洋郵船、 内田商事、山下汽船、勝田汽船、岸本汽船、辰馬汽船、 三菱合資、川崎造船、大阪鉄工、久原鉱業、浦賀船渠、 鈴木商店、互光商会の各代表者
この席において若宮会長は「電信協会において国家のため無線電信学校を創設する計画」を説述し、その予算案を提示して協賛を希望した。ついで中川通信局長より、「電信協会において無線電信技術員を養成することは、最も機宜に適した事業であるから、その成立を切望する」旨を詳述された。
以上の要望に対し、日本郵船の代表者から賛成の旨を述べ、直ちに郵船ほか12社代表を委員に挙げてこの会は終わったが、この招待会は、講習所にとっては、基礎工作として最大のものであった。当時一般産業は好景気で、殊に海運界の活況はすばらしく、日章旗は世界各国の港湾にひるがえった。また諸外国は船舶の無線電信施設を義務付ける法規を敷く傾向が著しくなってきた。したがって外国に発展するわが国の船舶は、この制度にも余儀なくされて、船舶に無線電信設備をするものが激増し、したがってまた無線通信従事者の需要も急増し、その速成が海運業者方面から熱望されるような状況であったので、寄付金は予想以上の多額に達し、講習所基礎確立の曙光がはっきり見えてきた。
寄付者数 | 日本郵船株式会社以下37社 |
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寄付金総額 | 46万1千円(大正8年2月までに完全収受) |
寄付者名 | 日本郵船、大阪商船、川崎造船所、山下汽船、互光商会、 日本海事工業、大正汽船、神戸商船、神戸桟橋、広海汽船、 日下部汽船、山地汽船、浦賀船渠、三菱合資、岸本汽船、 日本汽船、原田汽船、八馬汽船、村井汽船、三井物産、 辰馬汽船、太洋汽船、南洋郵船、板谷商船、小熊商店、 東洋汽船、内田商事、神戸東和汽船、大阪鉄工所、 明治海運、藤永田造船所、勝田汽船、鈴木商店、 浅野造船所、上西商会、古河商事、山一汽船 |
2-4 社団法人の設立
以上のような背景を踏まえて電信協会はこの機会に公益法人組織にすることを決定したのである。
- 同年(大正7年)9月23日主務官庁逓信大臣宛「社団法人設立許可申請」を行った。
- 同年9月25日、逓信大臣男爵田健治郎名をもって「社団法人電信協会設立の件許可」された。
- 同年10月4日社団法人設立登記を申請した。社団法人に伴い、新たに定款を作成した。
ここで一部引用してみると
第1条 | 本会は左に掲けたる事項を以て目的と為す |
1 | 電気通信に関する学術技芸を講究すること |
2 | 電気通信に関する法理を講究すること |
3 | 電気通信の拡張整理の方法を講究すること |
4 | 電気通信技術員の養成を為すこと |
第2条 | 本会は社団法人にして電信協会と称す |
第3条 | 本会は事務所を東京市に設置す 本会は必要に応し商議員会の決議を以て地方に支会を設くることあるへし |
第4条 | 本定款に定むるものの外必要なる規程は商議員会の決議を以て別に之を定む |
第5条 | 本会の会員は名誉会員及通常会員の二種とす 名誉会員は電気通信に関し偉大の功績あり若は名望ある者たるへし 通常会員は電気通信に関する業務二従事し又は之に篤志の者たるへし |
第6条 | 名誉会員は商議員会の決議に依り会長之を推薦す |
第7条 | 通常会員として入会せむとする者は会員の紹介に依り書面を
以て会長に其申込を為すことを要す 前項の入会は商議員会の決議に依り会長之を承認す |
第8条 | 通常会員は入会の月より退会の月に至るまて会費として左の割合の
金額を納付することを要す 年額 金3円 |
以下略 |
このようにして社団法人電信協会設立の手続きはすべて終わったが、短時日の間に順調に事が運んだのは、若宮正音会長の高邁な人格と偉大な力、これに協調する役員、関係各方面の熱意と努力によったことはもちろんであるが、当時逓信省管船局長の要職にあった若宮貞夫氏(後の会長)の直接間接の援護もまた大きな力となったのである。