電気通信大学60年史
後編第3章 開学当時の電気通信大学
第1節 初の専攻改革
1-1 電波通信専攻の誕生
電気通信学部だけの単科大学として発足してより数十回の教授会により本学の基本線が確立されつつあったが、現在の社会情勢は、広義の電気通信における最高学府である本学に、現状の電波工学、陸上通信、船舶通信の3専攻の他に通信運営方面が欠けているとの考えにのっとって通信経営専攻新設の気運が強くなっていたが、1950年(昭和25年)11月15日、本学関係者の周到なる計画が文部省に提出され、文部省の認可を得るにいたった。
では通信経営専攻とは何であろうか、概略を記してみよう。
わが国の広義の電気通信界の重要部門での企画・経営・管理においては、他の工学関係と同様電気通信についての基礎学及び技術には全く無関係の法、経、その他の文科出に占められているが、高度に発展せる現今の電通界は、現今の文科系出身による企画、経営管理にあきたらず、通信界の技術基礎学を有する運営者を切望している。この主旨にのったのが本学通信経営専攻新設の計画であった。 なお、講座名や科目名は本学教授会及び電通界権威者の意見を総合して決定され、確定的な具体案の発表となった。
通信経営専攻新設により1951年(昭和26年)入学者から、電波工学専攻(本学独自の構想であるが、大略他校の電気通信学部と同様45名、電波通信専攻(国内外の社会的要請による通信士の社会的地位向上及び本学の歴史的意図より学士号を有する通信士の養成)70名、通信経営専攻(前述のとおり)35名、別科(従来どおり)80名、として募集され、新設単位制による講義となった。ここで従来の船舶通信専攻と陸上通信専攻とが合併されて電波通信専攻の誕生をみたのである。
社会の出来事 |
|
---|
1-2 通信経営専攻新設さる
さて1-1に示すように通信経営専攻が新設されたが、1950年(昭和25年)12月22日在学生に対して新学制に関する説明が教授側よりあり、講座並びに学科目案が発表されたが、まだ単位、時間数等の詳細は決定されていなかった。しかも新学制は1951年(昭和26年)度入学者からはもちろんの事、在学生に対してもこの制度が暫定的に適用される事になり、このため在学生の中には多少動揺の気配もあるが、だいたいにおいて今までの電波工学専攻はそのまま、陸上及び船舶通信専攻は電波通信専攻となり、新たに通信経営専攻が設けられる事は前述のとおりである。各専攻者特にその志望者は通信経営専攻に行く事が出来るほか、学校当局では適性者と思われる者に対して勧告という措置を取る事もあるが、これはあくまでも自らの自由意志に基づくものであるから決して強制的なものではない、とその意向を明らかにした。
次に昭和26年度入学案内より一部転載してみると、従来は入学の際にそれぞれの専攻が決定していたが、昭和26年度以降はこれを改めて入学の際には専攻を決定せず入学後1ヶ年の学習を終った時に学生の志望により選考のうえ専攻を定める。その他、定員、修業年限、一般教養並びに専門科目、称号、諸経費等の詳細に関してはここでははぶくが、卒業後の進路について一言すれば新制大学としての卒業生はまだ出ていないが、従来の経験により考えられる一般的な進路は電波通信専攻の卒業生は無線通信士として、各方面にわたっている。
通信経営専攻の卒業生は、マーチャント・エンジニアとして活躍するのであるが、これは従来、企業経営に当たる大部分が文科系統の出身者であったので、技術者であって企業経営の学職技能をもったいわゆるマーチャント・エソジニアの出現を要望する声に応えんとするものであった。
社会の出来事 |
|
---|
1-3 学生の学科移動
通信経営専攻の新設に伴い、転専攻希望者は1951年(昭和26年)3月17日までに仮申告を行うように告示があった。この結果、2年生、3年生の各専攻より新設の通信経営への転専攻については、同年3月末日までに大学当局の教務課へ2年生29名、3年生32名の届出があった。その内訳は、2年生の船舶通信専攻から12名、陸上通信専攻から15名、電波工学専攻からは2名、なお3年生は、船舶通信専攻から9名、陸上通信専攻から16名、電波工学専攻から9名となって転専攻の希望者は予定数に達した。なお、在学生の中には、この新学制に対して多少動揺の気配もあり、電気通信大学の昭和25年、12月8日の新聞には次のような投書が載っている。
陸上通信専攻科の将来性今般大学当局が、陸上通信及び船舶通信専攻学生に対して通信経営専攻、電波通信専攻、電波工学専攻への転科志望者を募集した。
当局に於ては10名内外であろうとの予想に反して、約30名近くの転科願が提出された。然して、その志望者の大多数が陸上通信専攻学生であったという事実は何を語っているのであろうか。ここに陸上通信専攻生としてその疑点を述べてみたい。
第一に我々は電波工学専攻学生に対して1年に於ては1週9時間、2年では1週5時間の基礎通信実習を行っている。この時間数及び時間的制約(実習が最初又は最終にあるという)に依る我々の負担は、大学当局が指向する電波科学の予想し得ない発展に対し我々がその将来に何等かの基礎となるか否かである。少なくとも電気通信の異常なる発達に対して未だ各地方にある国立電波高等学校が実施しているこの実習を3ヶ年継続する必要性があるであろうか。
次に考えられるのが、電波通信専攻と電波工学専攻との専門受講座内容にその差違を認めている点である。本学の使命が電波科学の指向する高次の世界を無限に追求する事であるならば、これらの専攻卒業生は少なくとも実社会に於て兄たり難く又弟たり難きものと考えるものである。
最後にこの陸上通信専攻の性格というかその内容に就いてである。電気通信学というものは陸上と船舶とに判然と区別する理由があるのだろうか。そして又電気通信の陸上というものに限定すべき問題であろうか。我々は浅学にしてその見聞は少ないが陸上通信特に無線通信部門の分野は狭いものであろうと考えるものである。
これらの疑点の上に我々は陸上通信専攻の将来性に対して、多くの疑義を抱いているのであるが、大学当局に於て陸上通信が占める分野に対し見学その他の方途で我々にその見聞を広めてくれるならば我々の疑点も単なる杞憂に過ぎぬ事を悟るであろう。
全学生の最大関心事である各専攻専門科目履修勧告案が昭和26年5月16日の教授会で協議された。
勧告の講座はいわば従来の必修課目に当たるもので、通信経営専攻新設に伴い各専攻とも全面的改正が考案されていたが教授会でようやく決定された。決定事項は次のとおりである。
まず電波工学専攻学科履修勧告によれば、卒業論文着手並びに卒業するためには第1類講座中より35単位、第2類より21単位、全講座より84単位以上修得のこと。
次に電波通信専攻学科履修勧告は第1類より卒論着手に44単位(50)、卒業の為に58単位。第2類より卒論着手に8単位、卒業に10単位。全講座より84単位以上修得のこと。
通信経営専攻学科履修勧告は第1類より卒論着手に35単位(36)、卒業に37単位(38)。第2類より卒論着手並びに卒業のため19単位(23)。全講座より84単位以上修得のこと。
1、2類の分類次のとおり
- 電波工学では、
- 卒論6、第1類-電磁8(7)、電気回路4(5)、電測4、電子工学4、電子管回路3、実験12、現場実習2。第2類-電力工学4、機械工学1、製図1、無線機器4、無線機器設計3、電波伝播及び空中線4、無線通信方式3、航行用電波機器1、有線工学3、電気音響1、応用無線工学特論1、電気通信材料及び部品3、電波法規4。
- 電波通信では
- 卒論2、現場実習2、第1類-電磁4(6)、回路4(3)、電測3、電子工学3、無線機器4、実験6、通信術実習15、電波法4、電気通信事業法3、国際通信法規6、通信統計1、電波通信運用3、電波通信運用実習3。第2類-電力工学3、電波伝播3、航行用電波機器1、通信術理論2、特殊電波通信実習1、内国無線通信実習2、国際通信実習1、電波航法1、経営経済2、海事2、気象2。
- 通信経営では
- 卒論6、現場実習2、第1類-電磁4(6)、回路4(3)、電測3、電子工学3、電力工学3、電波法4、経営経済4、経営管理4、企業法3、簿記3、実験6。第2類-統計学4、通信術理論1、通信実習4(8)、財務論2、原価計算3、電気通信概論1、電波通信事業概論2、通信管理運用4、通信計画4、技術思想史2、電気通信材料及部品3。
(数字は単位、カッコつき数字は24年度入学生に対する単位)
社会の出来事 |
|
---|