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電気通信大学60年史

今日編1章  電気通信大学の現状

第3節:大学院の現状

3-1 電波通信学専攻

(電波通信学専攻の現状)
  • 専攻紹介

    電波通信学専攻は1965年(昭和40年)4月、現在の電波通信学科、通信工学科の2学科を合わせた形態の上にたてられたが、1970年(昭和45年)4月、拡充改組により通信工学専攻が分離し、ほぼ現状の1学科1専攻の規模となった。学生定員は1学年10名である。

    当専攻の教育・研究は、船舶通信の諸問題も含め、情報、システム、認識など広く情報科学に関する諸問題に重点を置いている。もちろん船舶通信については本邦唯一のもので、当方面の大学、工業高専、高等学校等への教官の育成のほか、これら諸機関勤務者の留学先として、既に多くの人々への研究指導に当たってきた。

  • 講座紹介

    現在、電波通信学専攻は、学部と同じ情報工学、航法工学、通信法規学、通信運用学、通信技術、電磁気学の外に研究施設の人工知能部門が加わり、7講座で編成されている。

    情報工学講座には、遠藤一郎教授、本多中二助手がおり、情報伝送特論の講義を担当している。研究は情報工学、システム工学、計算機関係の課題を取り上げている。現在の具体的な研究題目には、国際計算機網の研究(対ハワイ大学、モンクット工大など)、データ伝送の誤り訂正方式、データ伝送入出力装置、カルマンフィルタを用いた時系列情報の認識、情報検索システム、人間=計算機系のシステム評価等々がある。

    航法工学講座には、荒川輝明教授、鈴木務教授(兼任…応用電子工学科)、岩倉博助教授、宮武貞夫助手がおり、伝送理論特論、航法工学特論の講義を担当している。この講座は回路網、伝送工学、航法工学、衛星通信と計測、航空工学方面の研究を行っており、具体的な研究課題として、等角写像の伝送線路への応用、高周波、超高周波用フィルタ、超高周波用コネクタ、プラズマ波動、人工衛星用計測器の開発とデータ解析などがあげられる。

    通信法規学講座には、合田周平教授、小菅敏夫助教授、秋山登助手、上田美智子事務官がおり、システム理論特論及び通信法規学特論の講義を担当している。当講座には主としてシステム及び法規に関する研究を行っており、具体的な研究課題として、社会・環境システム、国際関係と情報処理、衛星通信と文化、宇宙通信法規、リモートセンシングと国際管理、通信法規の計量的研究などがあげられる。

    通信運用学講座には、望月仁教授、藤村貞夫講師(非常勤・東大助教授)、三橋渉助手がおり、プラズマ工学特論、通信運用学特論、パターン情報処理論の講義を担当している。現在、海上通信網の構成、船舶通信の自動化、海洋エネルギー、共鳴光の伝搬、パターン認識と情報処理などの研究を行っている。

    通信技術講座には、田中正智講師、有沢豊志、足立登両技官がおり、研究課題は通信教育のCAI・CMI、衛星通信の応用、赤外通信、超音波通信など幅広く通信の技術と運用に関しての諸問題を取り扱っている。

    電磁気学講座には、佐藤洋教授(兼担…計算機科学科)、御牧義助教授、武田光夫講師、田辺正実助手、和田文夫技官が所属しており、情報理論特論、信号処理の講義を担当している。この講座は現在情報理論と光学関係の研究を行っており、具体的には、雑音の統計的な性質の解明、レンズの設計などの諸研究が進められている。

    人工知能講座には、橋本清助教授が所属し、音声学の講義を担当している。現在の研究課題は音声関係で、発話過程の音響学・生理学的研究、音声と言語構造についての研究が行われている。

(電波通信学専攻の将来像)

先にも述べたように、本専攻は現在、情報工学、計算機網、通信システム、システム工学、社会システムなど広義の情報科学の分野の講義と研究を行っており、今後もこの方面の研究と教育体勢を充実し、更に広くサイバネティックスと社会システムについての諸問題も取り扱っていくことになろう。当然、海洋通信システムは宇宙通信システムとともに広域情報システムの代表例として取り上げられ、本専攻の社会的責任である当方面の研究者、教育者の育成も引き続き行われることになるだろう。

3-2 通信工学専攻

(通信工学専攻の現状)
  • 専攻紹介

    現在、情報化社会の高度化と多様化につれてデータ通信、ファクシミリ、テレビ電話、電子交換機の導入による総合デジタルデータ網などの通信システムや、これらの核心となる電子デバイス及びその組み合わせ電子システムの開発、性能向上が重要な課題になっている。これらの見地に立ち、本専攻は学部通信工学科の教育を基盤として情報・回路・交換・音響・物性についてより広く、かつ、レーザ工学、極低温工学などの将来技術及び教育工学などの学際領域も含め高度な専門分野の研究及び教育を行い、通信工学やその学際領域での新時代の学術的、社会的要請にこたえる人材の育成を特徴とする。すなわち広い視野に立った幅の広い基礎学力を有し、如何なる問題にも対処できる旺盛な応用能力、弾力性に富む問題探究能力を身に付けた研究者や技術者の養成を目的としている。

  • 研究紹介

    本専攻は入学定員10名。下記7講座で編成される。研究スタッフ、担当授業科目及び現在の主要な研究テーマを列記すると、

    電気回路学講座
    スタッフ 石坂謙三教授、樺沢康夫助教授
    授業科目 システム解析、認識工学
    研究テーマ 音声の発声機構と音声合成、パターン情報処理及ぴ音声情報処理
    伝送工学講座
    スタッフ 相田義一教授、横田誠講師、小河原博信助手
    授業科目 マイクロ波伝送特論、高周波伝送学
    研究テーマ 高周波・マイクロ波・レーザのフィールド解析と精密測定技術の開発、分布結合線路(漏話特性)、非線形フィルリング
    搬送工学講座
    スタッフ 山中惣之助教授、後藤俊成助教授、宇佐美興一助手
    授業科目 電子装置特論、薄膜電子工学特論
    研究テーマ 半導体電力スイッチングと応用、ディジタル回路による電力計、超伝導体の工学的応用、ジョセフソン接合の電子工学的応用
    交換工学講座
    スタッフ 雁部頴一教授、富田悦次助教授、藤橋忠悟助手
    授業科目 交換工学特論、基礎情報科学特論
    研究テーマ 電磁式・電子式交換機、電話・データ通信等のトラヒック設計法、通信トラヒック理論、オートマトンと言語の理論とその応用、パターン認識人工知能
    音響工学講座
    スタッフ 山口善司教授、岸憲史助教授、黒沢明助手
    授業科目 伝送品質特論、超音波工学特論、超音波工学特論
    研究テーマ 通話品質の評価法、両耳効果、衝突振動とその応用、電気音響変換器
    電子部品学講座
    スタッフ 岡本孝太郎助教授、小形孝角助手
    授業科目 電子部品学特論
    研究テーマ 化合物半導体デバイス、半導体表面現象
    実験工学講座
    スタッフ 武井健三教授、田中清臣助教授、桑田正行助手、高橋泰行助手
    授業科目 機械・電子機構論
    研究テーマ 学生実験におけるC・A・Iシステム、衝突振動の基礎的研究
(通信工学専攻の将来像)

上記のように本専攻は各講座の研究スタッフは充実し、各専門分野での研究及び教育に専心しており、専攻としての初期の目的は十分果たしている。

最近、人間尊重、生活優先、社会福祉の面から開発が急がれている情報化社会は前人未踏の社会である。それを達成するには人問の英智が必要であり、それを補う技術として優れた通信技術と高度なコンピュータ技術がその中心的役割を果たしている。すなわち社会の各分野でコンピュータや通信網が複雑にからみ合って目的を遂行するシステムが開発され発展しつつある。また、この原動力となるものは高度の機能をもつハード及びソフト技術である。したがって、本専攻の果たす役割と責任は大きく、広い視野に立った研究指導を行う必要がある。

そのためには講座間の壁にとらわれない緊密な連係が必要であり、これらの点を考慮の上、本専攻の研究や教育を進めてゆく。

3-3 応用電子工学専攻

応用電子工学専攻は応用電子工学科と同じ名称の電気測定学・電波工学・電子機器学・電子応用工学・電波物理学の5講座に加えて共通講座の通信基礎学及び研究施設の固体電子素子部門の7講座で編成されており、1978年(昭和53年)3月現在、教授6名、助教授3名が属している。研究室は西2号館の8階(電気測定、電子機器、電波物理)、5階(電波工学、通信基礎)、2階(電子応用)と西3号館5階(固体電子素子)とにあり、大学院学生はこれらの研究室で勉学に励んでいる。西2号館1階には院生用の教室があるので、講義はここで行われるものがかなりある。

電気測定学講座ではレーダとその応用、生体工学、空中線などに関した研究が行われている。レーダ関係では早期にVTRを導入して船舶の衝突防止に役立て、本四架橋による偽像等の対策を立て、またリモートセンシングによる地中探索をしている。生体関係ではマイクロ波による呼吸数の測定など各種診断への利用を研究している。また、空中線関係では複数個の空中線出力を信号処理することにより指向性の良好な空中線系を得ており、そのほかRCフイルタの応用研究も行っている。

電波工学講座ではマイクロ波から光波までの電磁波の工学的応用を研究している。ストリップ線路の電磁界解析を遮へい形線路に応用し、また、集積回路の熱分布、熱放散の解明をした。更にこれを光集積回路にも適用し、光変調器に取り組んでいるほか、新しい形の光ファイバーも目指している。将来は光通信システム、ホログラフィの応用、高速論理回路にも取り組む意向である。

電子機器学講座ではコンピュータ・ネットワーク、音声認識、ビデオ、PLLなどの研究が行われている。本学には最近稼働をはじめた情報処理センターの大型コンピュータシステム及びいろいろな規模のコンピュータが多数あり、東大の計算機センターとも専用回線で結ばれている。そこで学内でもネットワークを組み、各種端末からの利用が計られている。また、コンピュータによる音声認識、ケーブルテレビジョン、ビデオデスク、位相同期ループの応答特性などの研究も行っている。

電子応用工学講座ではデータ・タブレットがテーマの一つであったが、担当教授の退官に伴い、このテーマは通信基礎学に引き継がれ、現在は半導体デバイスの研究が中心となっている。この分野では従来からのカーボンに関する研究のほか、イオン打ち込みによる新しい材料やデバイスの開発を目指しており、炭素を打ち込んだシリコン膜はその例である。また、窒化ホウ素膜やリン化ホウ素膜な どの薄膜の研究と、新しい光導波路の研究にも目を向けている。

電波物理学講座では地球及び宇宙空間の電磁環境の研究を主体としている。すなわち、プラズマ物理学と電波伝搬学とを基礎として地球周辺や宇宙空間に生起する人工及び自然電波現象を扱っている。以前はVLF帯の電波伝搬と、これに基づく地球磁気圏や電離層の診断を中心としていたが、最近では木星電波の観測による放射機構の解明、HFドプラ法を用いた大気内部重力波起源の電離圏じょう乱の検出、電力線放射の飛しょう体による観測など多彩な研究をしている。本学菅平宇宙電波観測所と一体をなすほか、東大宇宙航研や極地研とも関係が深く、国際的にもIMS(国際磁気圏観測)やMAP(中層大気研究計画)に参加して積極的に活動している。

通信基礎学講座ではデータ・タブレットの研究を引き継いでいるほか、従来からの電気-機械系変換器の研究、巨大衝撃波の発生と伝搬の研究に加えて学内コンピュータ・ネットワーク形成の中心の一つとなっている。更に計測装置をコンピュータに結びつける研究も行っている。

固体電子素子講座は研究施設の一部門で、大学院については応用電子工学専攻と一体になっている。ここでは半導体を用いた新しい電子デパイスの研究開発を目指しており、そのために必要とする固体物性の基礎的な研究も併せて行っている。当面の主要テーマは太陽エネルギーの利用技術で、光エネルギーを電気エネルギーまたは水素エネルギーに効率良く変換する研究を行っており、かなり変換効率の良いものを得ている。

応用電子工学専攻に属する各講座での研究概要は以上のようであって、この体制は当分続くものと思われる。教授・助教授に若干の欠員があるので、新任者を迎えた場合、研究分野が多少拡大されるが、エレクトロニクスとその応用という範ちゅうから大きく外れることはあるまい。コンピュータ関係は、ある面では見直しが要求されるのもそう遠くはないと思われ、エネルギーや光あるいは高層物理などの面はいっそうの注目を集めると思われる。応用電子工学専攻としては学術の基礎に着目しながら、時代のニーズも考慮した研究を発展させていくことになる。

3-4 電子工学専攻

(大学院電子工学専攻の現状)
  • 専攻紹介

    現在入学定員は10名であるが、例年他大学出身者をも含めて入学志願者が激増しており、12~15名程度入学させている。また、専攻設立以来、毎年数名の外国人留学生が含まれている。

    修士の学生は、それぞれ数名ずつ研究室に所属し、所定の単位を取得するとともに、2年間、ある決まったテーマにより修士論文作成のための研究を行っている。数年来、大学院卒業生に対する社会的評価が定着し、各企業でも大学院修士卒の採用の比率は増大の傾向にあり、本専攻の院生は、就職時には、まさに"ひっぱりダコ"という状況にある。

  • 研究紹介

    大学院電子工学専攻の講座編成は電子工学科と同じである。各講座で現在実施している研究について紹介する。

    電子物理学講座
    半導体や絶縁物に不純物イオンを添加すると、その光学的磁気的性質がどのように変化するかを研究することによって、優れた新しい電子材料を開発することを目指している。
    電子装置工学講座
    写真フィルム等の画像の特徴を研究し、それから有用な情報を取り出すための装置を開発するとともに、それによって得られた情報の処理手法について研究している。
    半導体工学講座
    有機物や炭素を含めた各種半導体の物性的性質や応用について、更に、最近注目を浴びている薄膜や、太陽電池などの基礎となる界面現象について研究している。
    電子回路学講座
    音声の認識、合成、医用電子、マイクロ波等の広い分野にわたるアナログ、デジタル回路についての研究を行うとともに、レーザーの基礎及び応用に関する研究を行っている。
    制御工学講座
    現在、産業界から家庭電化器具に至るまで広く利用されている自動制御技術やオートメーションの基礎理論等、そこで使用されている各種機器について研究している。
    電力工学講座
    エネルギーの有効利用を目指して、できるだけ損失の少ない半導体電力変換装置を開発するとともに、これに伴う各種の工業計測機器、計測システムについて研究している。
(電子工学専攻の将来像)

修士は、狭い領域の研究者であるよりは、広い領域について学習教育を受けた者として一般社会に受け取られていることが多い。すなわち、修士は研究者になるだけでなく、広く一般の技術関連業務部門に進出しているのが現状であり、研究機関に入る者に対してさえも、むしろ細分化された専門科目を縮少し、演習時間を十分にとった共通基礎科目を充実しいく方が良いのではあるまいか。それが、社会への適応性の拡大であり、また、技術能力の増大につながると判断されるからである。

更に、より積極的に問題を自ら発掘し、それを解決して行く能力を持たせるために、修士論文においても、結果のみに重点をおかずに、研究の進め方に比重をおく指導をしたい。そうすることによって、結果のみに拘泥せずに困難な問題にも取り組んで行く姿勢が表われるのではあるまいか。

3-5 経営工学専攻

(1)経営工学専攻の大学院(修士)の現状

経営工学専攻としての大学院修士課程は、学部学科の上に2年の修業年限で積み上げられたものであり、学部学科5講座の上にそれぞれの修士コースの定員が2名ずつ計10名が入学定員となっている。

発足当初の1965年(昭和40年)4月は、入学者も2~3名程度に過ぎなかったが、年々志願者も増加し、最近は入学者も定員一杯となっている。入学者の出身はほとんど本学経営工学科の出身であるが、本学の他学科からと他大学からの志願者も増えてきている。

大学進学率の増加と大学教育の普及は、結果的に大学院、特に修士課程の存在意義を高く評価づけている。そのことは修士課程の修了者に対する求人申し込みが多いこと、年々の就職状況が良好であることで説明される。受け入れ側の社会的評価が定着してきたように思われる。しかし修士課程の内容の充実に、本学の特質の生成に今後の課題がある。

(2)大学院(修士課程)の内容紹介

経営工学科専攻の内容構成は、学部経営工学科の5講座の上に、そのままアドヴァンス・コースが設けられた形態を取っているので、格別な変化はない。全体として開講されているカリキュラムは、工業経済学特論・生産経済学特論・生産計画特論・工業会計学特論・企業法特論・経営心理学特論・生産管理特論・品質管理特論・人間工学特論・経営統計学特論・電子計算機特論・統計算学特論・システム工学特論・情報処理システム特論・オペレーションズリサーチ特論・経営数学特論の15科目を2単位で構成されている。学生は専門科目の講義のほか、指導教官の下で輪講・特別実験の科目名において自己の専門分野の理論的・実験的研究を深めることになっている。更に学位論文作成のための研究が2年の在学期間の大半を占めており、この点が大学院の特徴でもある。

大学院生の講義による修得単位数の最低限は30単位15科目であるから、平均として通年週5~6科目を受講すればよく、自発的自由研究時間が十分確保されている。学部生活と異なり、大学院生活による自主的研究態度が育成される基盤がここにあるといってよい。

(3)将来像

本学の経営工学専攻の修士コースは、大学院といっても経営工学専攻である点、学部の経営工学科の性格と何等異なるものではない。しかし、経営工学科の学部卒業生が進学するのであるから、おのずから異なるものがなければならない。それは一般的にいって自分の研究する分野を特定すると同時に、専門の深さをよりいっそう掘り下げて行くことである。

経営工学の領域は、経営的思考に方向づけられた経営における問題解決の手法の探究である。その意味で似通って否なる情報工学や電子計算機学科その他の学科と趣を異にしたものでなければならない。更に経営を取り囲む物心の諸条件はいっそう複雑化し、経営的思考の諸要因とその性格を異にしている。その諸要因を経営活動の意思決定因子として解を求めることは、単なる工学的、数学的手法では困難である。その意味では経営工学専攻の大学院修士コースは、ケース・スタディを多く導入して行くことが望ましい。そのためには実業界の協力を得て、経営活動のケースを収集する努力が必要となる。この実践的資料に基づいて、経営工学領域の各分野における研究を理論的・実践的に深めて行くことが、本学における経営工学専攻の独自性を明確にする途でもある。

3-6 機械工学専攻

3-7 機械工学第二専攻

(機械工学専攻及び機械工学第二専攻の現状)
  • 専攻紹介

    機械工学専攻は1965年度(昭和40年度)に通信機械工学専攻として設置され、1970年度(昭和45年度)に機械工学専攻に改称された。また、1978年度(昭和53年度)には機械工学第二専攻が設置され、以来二つの専攻は学部におけると同様に一体運営を行っている。

    機械工学系専攻は、学部における一般的並びに専門的教育の基礎の上に、広い視野に立って機械工学の理論と応用の高度な能力を養い、社会に寄与する指導的人材を育成することを目的としている。

    本専攻では、特に修士論文を重視し、現在の機械工学における重要な問題をテーマに研究を行っている。これによって、研究者や指導的技術者としての素養を身につけるとともに、学問・技術の発展に寄与することが期待される。

  • 研究紹介

    両専攻における各種講座の研究課題を記す。

    機械要素講座
    ・ローラの摩耗と潤滑
    ・各種歯車の潤滑と強度特性
    ・四球試験に関する研究
    ・ピッチングに関する研究
    機械工作法講座
    ・高エネルギー速度加工に関する研究
    ・電磁成形法に関する研究
    ・高ひずみ速度領域における金属材料の挙動
    ・複合板の曲げ成形性に関する研究
    ・プラスチックの冷間曲げ加工に関する研究
    ・有限要素法による材料非線形の研究
    ・有限要素構造解析プログラムの開発
    弾性及び塑性学講座
    ・不規則変動荷重疲労に関する研究
    ・疲労破壊の確立統計的研究
    ・金属の破壊機構に関する研究
    ・非線形破壊力学に関する研究
    熱流工学講座
    ・強制対流熱伝達に及ぼす二次流れの影響
    ・自然対流の安定性について
    固体力学講座
    ・複合材料の諸問題
    ・微視構造を有する連続体の理論
    ・多孔質複合材料の破壊機構に関する研究
    ・高分子材料の変形挙動の研究
    機械力学講座
    ・機械振動の測定に関する研究
    ・電気機械変換器に関する研究
    ・二次元弾性振動に関する研究
    ・一般機械振動に関する研究
    ・音響振動に関する研究
    機械材料学講座
    ・機械材料の信頼性に関する研究
    ・材料の環境強度、特に水素脆性に関する研究
    ・鉄鋼の熱間加工に関する研究
    ・金属単結晶の高温における変形
    ・金属材料の高温延性と破壊挙動に関する研究
    自動機械学講座
    ・歯車の精密加工法に関する研究
    ・歯車の新しい計測法と自動化に関する研究
    ・マイクロコンピュータの応用に関する研究
    ・超精密角度測定法に関する研究
    ・磁気スケールに関する研究
    ・楽器に関する研究
    信頼性工学
    ・材料強度の信頼性に関する研究
    ・金属材料の疲れ損復度に関する研究
    ・金属材料の疲れ過程分析に関する研究
(機械工学専攻及び機械工学第二専攻の将来像)

本質において機械工学系学科の将来像と同一の未来が期待されるが、より高度な機械技術者の養成が望まれることは言うまでもないことである。

3-8 材料科学専攻

(材料科学専攻の現状)
  • 専攻紹介

    材料科学(マテリアルズ・サイエンス)はいわゆる学際領域に属し、比較的新しい学問分野である。従来の冶金学・窯業(セラミックス)・固体物理学・化学の融合した学域をもち、また、物理学・化学といった理学と、電子工学・化学工学などの工学との中問に位置する応用理学あるいは基礎工学の性格をもっている。

    この新分野の人材養成のために、1968年度(昭和43年度)にまず通信材料工学専攻が設立され、ついで1972年度(昭和47年度)材料科学専攻に拡充改組された。電気通信学研究科にあって、この専攻は比較的理学的色彩が濃く、物理的・化学的研究手法が多用されている。金属・半導体・磁性体・誘電体・セラミックス・有機高分子物質などの電気電子材料はもちろん、広く物質の性質や運動法則を分子・原子・電子のレベルで追求し、新材料の設計や開発、有用な物性の発掘、解明、応用などの研究が遂行されている。

    専攻修了者は電気電子材料分野のみならず、エレクトロニクスに造詣の深い化学技術者、あるいは物理工学技術者として従来の学問領域においても広く重用され、活躍している。

  • 研究紹介

    材料科学専攻は材料物性学・材料分析学・誘電材料学・磁性材料学・高分子材料学・応用化学の6講座編成である。各講座に所属する教官の研究活動は活発で優れた業績をあげている。

    材料物性学講座

    研究施設磁気電子部門の井早教授の兼任、量子化学を基礎に分子の電子構造理論・分子と輻射場との相互作用・生体分子の誘起旋光能などに優れた業績を有している。助手の鈴木沖・伊藤博敏両博士もこの分野の理論的研究を行っている。佐野助教授は分子性結晶の三重項状態の研究、極低温での超電導磁石を用いてのゼーマン効果の研究などに成果をあげており、現在分子科学研究所助教授を兼任している。

    材料分析学講座

    藍原有敬教授は物質の誘電特性と分子構造並びに結晶構造との関係及び関連する水素結合の研究を誘電分光・赤外分光・可視紫外分光・核磁気共鳴などの実験手段を利用して発展させている。岩崎不二子助教授はX線による結晶構造解析が専門で、多数の興味深い有機硫黄化合物及び水素結合系化合物の結晶構造並びに分子構造を解明している。助手の林茂雄博士は電子線及び分子線に関する研究に実績を有している。

    誘電材料学講座

    丸竹正一教授は強誘電体の物性や圧電性研究の第一人者で、佐々木行彦助手とともに圧電材料の開発・強誘電体の相転移や弾性研究などを活発に行っている。丸山信義助教授はレーザーによる弾誘電体結晶の光学的性質、液晶相転移などの分野で注目される研究を展開している。

    磁性材料科学講座

    神戸謙次郎教授は磁性の理論的研究で著名であり、伊理武男助教授は結晶中の磁性イオンの電子状態や磁性体の磁気共鳴吸収分野で活発な実験的研究を展開し、現在カリフォルニア大学へ出張中で、助手の橋本満博士は磁性体の物性、薄膜の研究が中心となっている。

    高分子材料学講座

    大橋守教授、辻本和雄講師、山田修三助手は協同で電磁波と有機物質の相互作用を物質変化の立場で追求している。有機半導体の基本である電荷移動錯体の光反応、インビーム質量分析法の開発と応用、有機伝導性物質の開発などの分野で独創的な研究を展開し注目されている。また、視覚色素を初めとして天然物や生体物質に関する生物工学的研究の展開も期待される。

    応用化学講座

    国分信英教授は温泉成分の環境汚染などを対象に分析手法を用いて研究を展開し、科学史にも造詣が深い。山崎昶助教授は錯体化学、無機化学が専門であるが、最近は化学情報の分野でも活躍している。

(材料科学専攻の将来像)

現在のところ材料科学分野の専門技術者養成を主とする修士課程が設置されているが、この分野の学術を発展させ、研究を進展させる博士課程の設置が何よりも望まれる。本専攻を構成する各講座は高い研究実績を有し、国際的にも評価されているので既にその基礎は確立している。更に現在の6講座編成では広い材料科学分野をカバーできないので2倍程度の規模に増講座し、更に強力な研究教育体制とすることも必要であろう。

何よりも研究の雰囲気に満ちあふれ、画期的な研究が行われる専攻でなければなるまい。講座のわくを越えて、大きな協同プロジェクトの下に研究が大成し、内外の研究者が集中していくような独特な電通大学派が形成できたらすばらしい。院生も含めた専攻の構成員の努力で、この実現は可能であると信ずる。

3-9 物理工学専攻

(物理工学専攻の現状)
  • 専攻紹介

    この専攻修士課程は、電気通信学部物理工学科の学年進行に伴い、同学科を基礎として1971年度(昭和46年度)に設置された。

    電気通信学研究科の中にあって理学的色彩が割合に濃い。したがって、学部卒業生のうち物理学の基礎に特に興味を持ち、それをもっと学びたいと考える学生が進学して来る。また、他大学の理学部物理学科からの進学者もある。

    しかしながら、他大学の理学専攻科物理学専攻とは異なり、教育的研究面において、本専攻の置かれた環境を生かし、理論的研究においては電算機を十分に使いこなした数値計算が、また、実験的研究においては測定装置のシステム化とそれのマイクロ・コンピュータによる制御が、たぶんに取り入れられている。

  • 研究紹介

    この専攻は、電気通信学部物理工学科の4講座に、共通講座流体工学の半講座及び同応用物理学を加え、5講座半から成っている。

    以下に研究内容を各個に紹介する。

    固体物理学講座
    教授 大山哲雄、助手 山田修義 金属、合金間化合物について、磁性原子が置かれた環境とその体系の磁性との問の関連を見定めることを通じて磁気的秩序の発生と、それに対する伝導電子の寄与の問題を実験的に研究している。
    助教授 品田正樹 極めて強い磁場の中に置かれた原子、分子の問題や吸収スペクトルを確率過程論的に取り扱う問題の理論的研究を行っている。
    分子工学講座
    教授 土方克法、助手 小山直人 重イオンの電子構造及び原子、分子の動的過程の理論的研究を、大型電子計算機を用いた精密計算により進めている。
    助教授 重成武 レーザーを用いた光散乱の実験により、光散乱分光学の研究、特にラマン散乱による誘電体の相転移の研究を行っている。
    放射線工学講座
    教授 井上雅夫、助手 天野力 イオンサイクロトン共鳴分析計を用いてイオンと中性原子及び原子・分子との化学反応を研究している。原子衝突の実験的研究である。
    助教授 松澤通生 原子衝突、特に励起種が関与する場合の理論的研究を行っており、核融合等のエネルギー科学や放射線物理への応用に関心を持っている。
    量子光学講座
    教授 宅間宏 助手 梅津和子 核融合用新形レーザーの基礎、レーザー誘起化学反応、レーザーによる原子・分子の励起状態の過渡現象及び高分解能分光学並びにこれらに関連する計測技術の研究等を行っている。
    助教授 神原武志 固体結晶及び非晶質について、その電子構造の理論的研究を進めているほか、固体表面並びにそこに吸着されている分子について、その電子構造・物性を研究している。
    応用物理学講座
    教授 権平健一郎 固体及び固体表面の電子構造、磁性、光物性の研究を中心に、物性の理論的研究を行っているほか、非可逆過程の統計力学の研究を進めている。
    助教授 伊東敏雄 レーザーを用いて非線形光学及び原子・分子の分光学の研究を実験的に進めている。
    流体工学講座
    教授 大路通雄、技官 鍋島秀喜 乱流の統計理論と輸送現象の研究並びに電磁流体力学の基礎及び応用の研究を進めているほか、風洞を用いた実験的研究を計画している。
(物理工学専攻の将来像)

この専攻で進められている研究の内容は、上記のように基礎工学ないし物理学の色彩が比較的濃いものであり、この点は将来も変わるものではないと考える。この専攻を核として、われわれの電気通信大学が大型電子計算機を使用した精密計算に基づく原子・分子の繊密な研究並びにレーザーの基礎及び応用研究の、日本におけるメッカになることも遠い夢ではない。

3-10 電子計算機学専攻

(電子計算機学専攻の現状)
  • 専攻紹介

    電子計算機学専攻は、電子計算機学科の完成をまって1974年度(昭和49年度)に設置された。1977年度(昭和52年度)より学科名称が変更されたことに伴い、1981年度(昭和56年度以降)、計算機科学専攻と改称されることになろう。

  • 研究紹介

    当専攻の内容、性格は前記の計算機科学科のそれと同一であるから繰り返し述べることは省略するが、講座編成は計算機科学科を構成する5講座すなわち論理回路設計学講座・記憶装置学講座.ソフトウェア基礎学講座・システムプログラミング学講座・端末装置学講座に言語工学講座を加えた6講座である。

    言語工学講座は電子計算機学科に伴って設置された共通講座で、現在の主な研究課題は自然言語の処理・自動翻訳・人工知能・認知科学・情報検索等である。

    学科と同様に特徴のある専攻として注目を受け、他大学の卒業生並びに外国留学生で入学する者も少なくない。

(電子計算機学専攻の将来像)

計算機科学科の発展とともに当専攻の充実は急務であると考えられる。計算機の進歩に相応したより高度な人材の育成・研究活動を果たしていくことが当専攻の使命であろう。

3-11 情報数理工学専攻

(情報数理工学専攻の現状)
  • 専攻紹介

    この専攻は1977年度(昭和52年度)に設置され、1979年度(昭和54年度)に初めて5名の卒業生を社会に送り出す出来て問もない専攻であり、伝統と呼ぶべき性格が出来上がっているわけではない。しかし、学部における情報数理工学科を母体にして生まれ共通講座及び一般教育所属の数学系教官も一体となって運営されており、そのことがこの専攻の特色をおのずから発揮させる結果になっている。

    既に述べたように情報数理工学科は数学を教育の基礎とする情報系学科である。本専攻は、その基礎の上に立って、現代数学と情報処理の最新の結果を取り入れつつ、より高度の数理科学あるいは情報工学を教育しかつ研究する。微分方程式による現象の解析、有限要素法による解の近似、数値解析による解の構成などは、応用確率論、数理統計学、計画数学などとともに、重要な研究分野の一つである。

  • 講座紹介

    本専攻は6講座から成り、講座名と教官名は次のとおりである。

    応用解析学
    教授 水野弘文、助教授 渡辺二郎
    数値解析学
    教授 林一道、助教授 牛島照夫
    情報基礎学
    助教授 名取亮
    計画数学
    教授 森口繁一、助教授 小林光夫
    統計数学
    教授 藤沢武久、助教授 赤平昌文
    応用数学
    教授 高野一夫、助教授 安香満恵、助教授 金沢稔、助教授 田吉隆夫
  • 研究紹介

    授業科目と研究担当者

    多様体論
    水野弘文
    1、多様体、特に代数多様体の構造と応用
    2、符号理論
    関数解析特論
    渡辺二郎
    1、非線型半群及び非線型発展方程式
    2、非圧縮性粘性流体の有限要素法による近似の研究
    3、境界値問題、固有値問題、初期値問題
    情報数理工学特論
    林一道
    1、関数解析的手法による解析関数の理論
    2、複素解析、関数解析の方法による数値解析の基礎
    数値解析学特論
    牛島照夫
    1、偏微分方程式の数値解析
    2、有限要素法の基礎理論、発展方程式の近似理論
    情報基礎学特論
    名取亮
    1、数値計算のアルゴリスム
    2、自由境界問題のアルゴリスム
    計画数学特論
    森口繁一
    1、オペレーションズ・リサーチ及びシステム工学における数理的方法の研究
    情報処理特論
    小林光夫
    1、ソフトウェア工学
    2、数値解析
    応用確率過程論
    藤沢武久
    1、待ち行列論、信頼性理論、再生理論の研究とその現実問題への応用
    数理統計学
    赤平昌文
    1、統計的漸近理論、統計的予測理論、時系列解析の研究
    幾何学特論
    高野一夫、安香満恵
    1、微分可能多様体
    2、微分幾何学
    代数学特論
    金沢稔
    1、有限群論
    微分方程式特論
    田吉隆夫
    1、数理物理学における偏微分方程式
(情報数理工学専攻の将来像)

情報数理工学専攻は、数学と計算機を駆使して新しい分野を開拓して行く。教育面においては、問題を自ら発見し、自ら解決してゆく能力のある研究者、技術者、教育者を養成することを目標とする。

これからの研究分野としては非線型の問題、例えば非線型空間としての多様体の構造、非線型符号理論、物理や工学に現われる非線型現象とそれを扱うための非線型微分方程式の解法等々が重要であり、本専攻における主要研究テーマとなるであろう。

「情報」というものは、それが最終的に人間にインプットされて始めて意味をもつ。人間にとって「情報」のもつ価値とは結局何であるか。この問題を見つめつつ、そして数学とかコンピュータのわくにとらわれることなく広い視野に立って研究と教育を進めて行くことがたいせつであろう。