収蔵品の動態展示に向けた修復作業
カシオ製リレー式計算機 AL-1 の修復
はじめに
カシオ計算機株式会社が1962年に製造したリレー式計算機AL-1が、当ミュージアム2階の第2展示室に展示されている。同機はもともと東京大学理学部小柴昌俊研究室で使用されていたが、その後、理化学研究所を経由して1993年に電気通信大学大学院情報システム学研究科に引き取られ、2009年から当ミュージアムで展示されていた。当ミュージアムに搬入された当初は正常に動作する状態にはなかったが、情報システム学研究科時代には部分的ではあるが動作していたことから、修理すればAL-1は計算機械として動作するはずだと考えた。
AL-1はリレーを論理素子に用いた計算機械である。数値キーと演算・操作キーを持つコンソールを入力装置とし、他に定数設定用のダイヤルつまみ等が設けられている。出力装置は10進10桁分の数値表示用のニキシー管と小数点位置を表示する10個のランプ、および負数で点灯する赤ランプ、などである。AL-1の基本演算は四則演算と開平演算であり、内部での演算は"そろばん"に類似した2・5進法で計算されている。また、プログラムユニットを装着する機構を有しており、当ミュージアムのAL-1では約60ステップの命令群を逐次実行可能である。ただし、分岐や条件判定等の命令はない。
2014年1月からAL-1の修復作業を開始し、四則演算と開平演算が正しく動作することを確認し、さらに進んでプログラムユニットも複製した。こうして動態展示が可能となった当ミュージアムのAL-1は、2017年3月に情報処理学会から2016年度情報処理技術遺産として認定された。本記事では、AL-1の修復の過程について報告する。
動作状況の調査
AL-1が動作しない原因は、論理素子として動作するリレー接点の接触不良以外にも、スパークキラー用コンデンサの不良や電源回路の不良等が考えられる。AL-1の内部を調査したところ、スパークキラー用コンデンサは外観もかなり綺麗で異常は見られなかった。調査の結果、コンデンサ類は一度交換したことがわかった。念のため数個のサンプルを選んで抽出し、静電容量と誘電正接 tan δを測定したところ、規格値内に収まっていることを確認した。また、ニキシー表示管は点灯しており一部のリレーも動作していることから、電源部にも特段の問題はないと考えられた。リレー接点の接触不良を修復すればAL-1は動作すると判断したが、回路図などの資料が無いので接点不良のリレーがどれかを特定することはできなかった。このため、すべてのリレーのすべての接点を磨くことにした。
リレー接点の清掃
リレーの接点にはいくつかの種類がある。リレーの動作によって接点がつながるメイク接点、接点が離れるブレーク接点、メイク接点/ブレーク接点の両方を有するトランスファ接点、である。AL-1にはトランスファ接点のリレーが多く使われており、メイク接点、ブレーク接点の単接点の数は少なかった。リレー1個は複数の接点回路で構成されたものが多く、大部分のリレーが5つの接点を備えていた。
トランスファ接点の場合、メイク側とブレーク側の両面を磨かなければならない。つまり、トランスファ接点のリレーが5接点を持つ場合、リレー1個当たり10箇所を磨く必要がある。AL-1のリレー総数は516なので、全体として5000箇所以上の接点を磨くことになった。
リレー接点を磨くには、通常は"接点磨き治具"が必要である。しかし、当ミュージアムには"接点磨き治具"が無い。そこで、600番の紙やすりを20mm幅に切って折り曲げ、両面がリレー接点に当るように工夫した。この紙やすりを使い、リレー群の左上から順番に下側に向かって、すべてのリレーの接点を磨くことにした。
接点を磨く際の注意点
リレーの接点をむやみに磨くと、接点が摩耗したりあるいは形状が変形し、論理素子として機能しなくなる恐れがある。そこで、過去の業務上の経験から、次の諸点に注意しながら作業を進めた。
- "接点磨き治具"(紙やすり)を使い、接点間を2~3回磨く。それ以上は磨かない。
- メイク接点は接点を開いた状態で"接点磨き治具"(紙やすり)を入れ、鉄片を指で押して接点を閉じて磨く。ただし、接点部分には触れない。
- ブレーク接点は鉄片を指で押して接点を開き、"接点磨き治具"(紙やすり)を入れ、鉄片を指で離して接点を閉じてから磨く。ただし、接点部分には触れない。
一日に100個のリレーを磨くことを目標に掲げ、2014年1月末から作業を開始し、2月中を接点磨きに費やした。全体の半分ほどのリレーの接点を磨き終えた段階で作業をいったん中断し、電源を入れてAL-1の動作を検証した。
基本演算動作の確認
リレー接点を磨き始める前のAL-1の状態は、例えば、同一の数値キーを連続して押下すると当該数値が10桁まで入力できる場合(たとえば数1は10桁まで入力できた)、特定の桁まで入力すると表示が消えてしまう数値、あるいは、最初から数値を入力できない、など、さまざまな状態が混在していた。516個のリレーのほぼ半分のリレーの接点を磨いた段階で、数1~4までは全桁の入力が可能になった。
AL-1の内部での数表現は2・5進法に従って表現されている。このため、数5以上の値を入力する場合、押下した数値を正しく表示する場合と、数5を表す桁が欠落して表示されない場合があった。例えば、数7が数2と表示される、などである。そこで、引き続き接点磨きを続行し、すべてのリレー接点を一通り磨き終えた結果、0~9の全ての数を10桁分入力できるようになった。最後に、四則演算を行い、正しい演算結果が得られることを確認した。
四則演算が正しく動作するようになったにもかかわらず、開平演算では正しい結果が得られなかった。そこで、開平演算に際して動作するリレーがどこにあるのか、その位置を同定したところ、筐体裏面から見えるリレー群の右端より5列目までのリレーが開平演算の際に動作していることがわかった。これらの開平演算に関連するリレーに対して再度接点磨きを繰り返したところ、開平演算の結果も正しく得られるようになった。
コンソールキーの修理
AL-1の動作状況を確認している際に、キーボードの位置を動かすと、それまで入力できていたキーが反応しなくなるなどの現象が発生した。キーボード裏面の配線状況を調査した結果、キーボードとAL-1本体を接続するコネクタ部の半田付けが外れたり、外れかけている線などが見つかった。1962年の製造から50年以上も経過していることから、半田付けの際に残留したフラックスの影響を受けて接続部が脆くなっていることがわかった。そこで、コネクタ(オス側/メス側)に接続されている線材の半田付けをすべてやり直した。
半田付けを終えて本体の電源を入れて数値キーを押下したところ、キートップの表示とは異なる数値が表示されることがあった。あらためて配線の接続状況を確認したところ、半田付け修理の際に誤配線したことがわかった。それらの接続を修正したところ、正常に動作することが確認できた。最終的に、小数点を含んだ四則演算と開平演算(例えば√2=1.41421356、√3=1.7320508など)が正しく実行できることを確認し、これで基本的な修復作業は完了したと判断した。
プログラム機能の回復
樫尾俊雄発明記念館への訪問調査
2014年4月、リレー式計算機AL-1に関する情報収集と意見交換を目的として、世田谷区成城にある樫尾俊雄発明記念館(以下発明記念館と表記)を訪問し、当ミュージアムのリレー式計算機AL-1が動作している様子をビデオでご紹介した。発明記念館のAL-1は展示してあるだけで動作していないとのことだったが、担当のK氏は当ミュージアムのAL-1の動作に触発され、発明記念館のAL-1も接点を磨くことから始めて、修復を試みたいと仰っていた。
発明記念館のAL-1には負数表示ランプが無かったが、当ミュージアムのAL-1には負数表示ランプが備わっている。同じAL-1でも製造時期によってバージョンが異なるのかもしれない。発明記念館にはAL-1のプログラム円盤のレプリカも展示されていたので、参考のためにその形状と寸法を測定させていただき、当ミュージアムのAL-1のプログラム機能を復元することにした。
コンソールキーのキー割り当てと操作の確認
AL-1には一連の計算を逐次的に実行するための機構が備わっている。しかし、その機構をどのように使用するのか、装置や手法、プログラム形式などが不明だった。また、コンソールキーの役割についても不明な個所があった。
例えば、コンソールのキートップには、"-"や"+"、"="等の記号が二組ある。見かけのキーの大きさの違いや、どこに配置されているかで区別はできるが、その機能の違いが分からない。最終的に、東京農工大よりAL-1の資料を提供いただき、それを参考にして実際に操作しながら、それぞれのキーの機能を確認した。コンソールのキートップを下の写真に示す。
加減算の際のAL-1の動作を種々調べたところ、内部には被演算数を格納するレジスタ、演算数を格納するレジスタ、演算結果が格納される演算結果レジスタ(この内容が表示部で表示される)、などが備わっているようである。
- 電源投入直後はすべてのレジスタの内容はゼロになっている。
- AL-1の状態が、キー操作による数値入力の状態にあるとき、入力される数値は演算数レジスタと演算結果レジスタに送られ、同時に表示部にも表示される。
- 演算子の"-"あるいは"+"が入力されると直ちに被演算数レジスタと演算数レジスタの間で減算ないし加算が実行される。
- この演算結果は演算結果レジスタに送られ、同時に表示部にも表示される。
- それだけでなく、引き続き連続して加減算ができるように、この演算結果は被演算数レジスタにもコピーされ、一方で演算数レジスタはゼロにリセットされる。
現在の一般的な「電卓」での四則演算では数式通りのキー操作が採用され、"="が押されることで結果が得られる。しかし、上に述べたようにAL-1での加減算では結果を求める演算子"="が使われず、"-"あるいは"+"を押下することで演算が実行される、一種の後置記法が採用されている。その一方で、乗除算の場合は"="キーを押下したときに被演算数レジスタと演算数レジスタとの間で演算が行われ、その結果は演算結果レジスタに送られ、同時に表示部に表示される。
東京農工大から提供いただいた資料によるコンソールキーの機能を以下に示す。ただし、当ミュージアムのAL-1では、この中のいくつかのキーが下記の表の通りには機能していないので、独自に整理した内容も追加してある。リレー接点の磨き方が未だ足りないのか、AL-1のバージョンの違いによる差なのか、は不明である。
番号 | 項目 | 機能説明 |
---|---|---|
1 | 電源スイッチ | 電源投入、計算の準備。本機を使用しないときや、誤操作等で異常が生じた場合はスイッチを切る。 |
2 | 少数位置指定(右向き、左向きの矢印の刻印) | 開平の際の小数位置の決定。 |
3 | 下位表示(RS) | 積が10桁以上になる場合、上位10桁はそのまま表示されるが、下位の桁数を読み取るときに使用 |
4 | KC | 置数(キー操作で演算数レジスタと演算結果レジスタに入力されて表示されている数)の訂正。加減乗除のほか、すべての置数を小数位を含めて訂正できる(当ミュージアムのAL-1では動作が異なり、メモリーの内容が表示部に読みだされる)。 |
5 | N | 負数を入力するとき、数の入力の前に押す。数値表示部の左側にある赤ランプが点灯する。 |
6 | - | メモリー内容から置数を減算(当ミュージアムのAL-1では動作が異なり、メモリーの内容が表示部に読みだされる)。 |
7 | + | メモリー内容に置数を加算(当ミュージアムのAL-1では動作が異なり、メモリーの内容が表示部に読みだされる)。 |
8 | AC | 演算結果のクリア(遷移中の状態によって機能が異なるようである)。 |
9 | √ | 置数の平方根の演算 |
10 | - | "-"が押された段階で直ちに、被演算数レジスタに格納された数から置数(キー操作で演算数レジスタと演算結果レジスタに入力されて表示されている数)が減算される。結果は演算結果レジスタと被演算数レジスタに格納され、表示部にも表示される。 |
11 | + | "+"が押された段階で直ちに、被演算数レジスタに格納された数に置数(キー操作で演算数レジスタと演算結果レジスタに入力されて表示されている数)が加算される。結果は演算結果レジスタと被演算数レジスタに格納され、表示部にも表示される。 |
12 | 1~9 | 最大10ケタの10進数値を表示部に入力。 |
13 | . | 少数点の入力 |
14 | = | 乗除算の結果を、定数設定パネルで指定された小数点以下の桁数で表示する。 |
15 | X | "X"の入力の前に表示されていた置数を被乗数とし、"X"の次に入力される数を乗数とする。その後に続く"="あるいは"="で乗算が実行される。 |
16 | ÷ | "÷"の入力の前に表示されていた置数を被除数とし、"÷"の次に入力される数を除数とする。その後に続く"="あるいは"="で除算が実行される。 |
17 | = | 浮動小数点形式で乗除算を行う。また、表示部に表示されている数を二乗する際にも用いられる。 |
18 | M | 表示部に表示されている数ないし演算結果をメモリーに格納する。 |
19 | F | メモリーの内容を表示部の置数に戻す。 |
20~23 | 定数ダイヤルA、B、C、Dからの数値読み出し | 定数ダイヤルは、通常、AとC、およびBとDの組み合わせで用いられ、ACおよびBDで示す10進数10桁2組の数値を設定できる。定数設定パネルのDIVスイッチを下に倒しておくと、10桁2組でなく、A、B、C、およびDの独立した5桁4組の定数を設定できる。 |
24 | プログラム | プログラム機能を有効にするときに押下する。プログラム機能有効時は緑色のランプが点灯する。 |
表示部の外形
表示部には、負数を表す赤色ランプとプログラム実行モード中を示す緑色ランプが付いている。定数設定パネルには、小数点以下の桁数を設定するつまみ、数値の四捨五入や切り上げを指定するスイッチ等も備わっている。
プログラムユニットの構造
AL-1のプログラム機能は、樹脂製の円盤6枚で構成されるプログラムユニットを、本体左側面に設けられた読み取り機構にセットして実行される。プログラムユニットが規定の角度回転するごとに各円盤外周の切り欠きの有無を検出し、論理1か0かを判定して命令の1ステップが実行される。つまり、一つの命令が6枚の円盤の切り欠きの有無で表現されるので、命令の1語は6ビットで構成されることになる。また、円盤外周の分割数がプログラムの最大ステップ数を定めることになる。プログラムを組むためにはプログラム仕様書など説明資料が必要だが、この時点では詳細資料が入手できていなかった。そこで、樫尾俊雄発明記念館で採寸したレプリカを復元して調整することにした。
プログラムユニットの復元
発明記念館で採寸したレプリカのプログラムユニットを小椋調査員が図面化し、櫻井調査員がミュージアムの小型旋盤やボール盤などを駆使して約1月かけて試作した。試作品を実際にAL-1に取り付けてみると、発明記念館のレプリカの寸法ではプログラムユニットの最大ステップ数が合わないことがわかった。発明記念館のレプリカはプログラム円盤の一周が43ステップに分割されていたが、当ミュージアムのAL-1では60ステップであった。また、発明記念館のレプリカと同じ寸法で円盤を作成すると、当ミュージアムのAL-1の円盤の切り欠きを検出する接点まで届かないことがわかった。このため、レプリカの円盤の直径58mmではなく、当ミュージアムでは直径60mmに変更した。その他、プログラム円盤をAL-1にセットした時に、円盤と切り欠き検出接点の位置が奥行きの軸方向で1mmずれていたので、最奥のスペーサの長さを1mm短縮した。
プログラムの実行開始位置に相当する駆動用穴の位置と円盤の切り欠きの位置の関係が不明だったので、ダミーの円盤を作成してAL-1に取り付けた。初期位置にプログラムユニットを移動させた後にAL-1の電源をOFFにし、手作業でプログラムユニットを回転させ、切り欠き検出接点との位置関係を鉛筆で円盤上にマークした。
プログラムユニットの組み立て調整
円盤を紙で製作してAL-1に取り付けて動作させたところ、プログラムが数十ステップ進んだ段階で円盤と切り欠き検出接点との位置関係がずれてしまう現象が見られた。この位置ずれを改善する為に2箇所でプログラムユニットの円盤を締め付けた。
円盤は薄紙に印刷した後、厚さ1mmの厚紙に貼り付け、実装するプログラムに応じてカッターで外周を切り欠いた。しかし、この方法では加工精度が悪く、プログラムユニットを構成する6枚の円盤の位置ずれが無視できなかった。そこで、最初に厚紙で円盤を作り、それを6枚重ねて駆動用の穴を開けて位置合わせの精度を高めた。その後、厚紙の穴に治具の棒を入れ、治具にそって印刷した円盤を貼り付けることで位置合わせの精度を高めることができた。
当初、外周に切り欠きを入れた円盤で構成されるプログラムユニットをどのようにセットするのか不明だった。その後、プログラムの操作方法やプログラムユニットと演算機能の関係が記述された資料を東京農工大から提供いただいた。それに基づいて、以下に示す操作手順および命令表を作成した。
- プログラムユニットを所定の位置にセットする。
- 「Pr」(プログラム)ボタンを押下すると緑色ランプが点灯し、プログラムユニットを用いたプログラムの逐次実行モードになる。
- 「-」を押下してプログラムのステップを最初の実行開始位置にあわせる。
- 「+」を押下するとプログラムユニットが回転し、外周の切り欠きに応じてプログラムが逐次実行されていく。
- プログラムを再度実行する場合は「-」を押下する。そして、プログラムユニットを最初の実行開始位置に戻す。
- プログラムを終了する場合は、「Pr」(プログラム)ボタンを押下して緑色のランプを消灯させ、プログラムの逐次実行モードから抜ける。
注意: 緑色ランプが点灯のままAL-1がプログラムの逐次実行モードにある場合、コンソールキーを用いて通常のように計算すると、誤動作することがある。緑色ランプの点灯状態は、電源をON/OFFしても状態が維持されているので、計算を行うにあたって緑色ランプの消灯・点灯を確認する必要がある。
プログラム部の機能と動作確認
プログラムユニットは(a~f)の6枚のプログラム用円盤(ギア)の組み合わせで作られており、下の表に示すように、命令語の1語は6ビットで構成される。
No | 機能 | ギアa | ギアb | ギアc | ギアd | ギアe | ギアf |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | KC | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
2 | AC | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
3 | M | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 |
4 | F | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 |
5 | - | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 |
6 | + | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 |
7 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
8 | ÷ | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 |
9 | - | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 |
10 | B | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 |
11 | C | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 |
12 | R | 1 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 |
13 | A | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 |
14 | → | 1 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 |
15 | D | 0 | 1 | 1 | 0 | 1 | 0 |
16 | √ | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 |
17 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 |
18 | × | 0 | 1 | 0 | 1 | 1 | 0 |
19 | + | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 |
20 | 停止 | X | X | X | X | X | 1 |
AL-1のプログラム演算機構の動作を確認する目的で、X=14+24+34 +44+54+64 +74+84を計算させる一連の命令ステップを下記の表のように構成し、プログラムユニットを組み立てて実際に動作させ、正常に計算されることを確認した。この表中で演算子"="は表示部の数値の2乗を計算し、"="を2度繰り返すことで4乗が計算される。
No | 機能1 | 機能2 | キー入力 | ギアa | ギアb | ギアc | ギアd | ギアe | ギアf |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | KC | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | ||
2 | AC | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | ||
3 | M | 停止 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
4 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
5 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
6 | M | 停止 | 2 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
7 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
8 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
9 | + | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | ||
10 | F | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | ||
11 | + | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | ||
12 | M | 停止 | 3 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
13 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
14 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
15 | + | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | ||
16 | F | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | ||
17 | + | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | ||
18 | M | 停止 | 4 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
19 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
20 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
21 | + | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | ||
22 | F | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | ||
23 | + | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | ||
24 | M | 停止 | 5 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
25 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
26 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
27 | + | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | ||
28 | F | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | ||
29 | + | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | ||
30 | M | 停止 | 6 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
31 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
32 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
33 | + | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | ||
34 | F | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | ||
35 | + | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | ||
36 | M | 停止 | 7 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
37 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
38 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
39 | + | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | ||
40 | F | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | ||
41 | + | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | ||
42 | M | 停止 | 8 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
43 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
44 | = | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | ||
45 | + | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | ||
46 | F | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | ||
47 | + | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | ||
48 | M | 停止 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
今後の課題
上に述べたように、当ミュージアムのAL-1はプログラムユニットによる一連の計算も可能となり、修復作業は一通り終了した。しかし、コンソールのキーの中で、KC、-、および+については、東京農工大から提供いただいた資料の説明通りには機能していない。それがリレー接点の不具合に起因するのか、AL-1のバージョンの違いによるものなのか、現状では理由が不明である。これについてはさらに調査を続けたい。また、AL-1は長期間動作させないとリレー接点が接触不良を起こすことがある。今後も定期的に動作させて機能を維持するようにしたい。
おわりに
小柴昌俊研究室でこのカシオ製リレー式計算機AL-1を使用したことのある研究者のお話を、当ミュージアムの学術調査員を介して伺ったところ、「AL-1がまだ稼働しているとは驚きであり、実に懐かしいです、プログラムについては、何しろ50年前のことですから、残念ながら全く覚えていません」とのことだった。また、「AL-1は組めるプログラムのステップ数が60足らずとわずかだったことと、その頃に発売されたソニーの小型電子式卓上計算機の方が演算速度も遥かに速く、プログラムステップも多かったので、以後、AL-1は使わなくなったと記憶しています」とのことである。
末筆ながら、カシオ製リレー式計算機AL-1の修復作業に対し、有益な資料を提供下さった多くの方々に感謝申し上げます。また、プログラム円盤のユニット構造の計測をお認め下さった樫尾俊雄発明記念館に感謝するとともに厚く御礼申し上げます。
参考資料:東京農工大情報工学科提供 「カシオリレー計算機 AL-1 型使用説明書」、同「カシオ計算機講習用テキスト AL-1 型」
(学術調査員 小椋正明 櫻井徹男)